モリパス部 部会 第3回に参加して、メンバーにアドバイスを贈ったアートディレクターのカイシトモヤさん。作品発表イベントでは、ゲストトークに登壇し、Moji no ZINEやフォントを活用するデザインについて話してくれました。

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プロセスがよく設計されて大成功

もしもMoji no ZINEというプログラムを採点するとしたら? ふだん、大学で教鞭を振るうカイシさんは、ゲストトークに大学モードで臨み、話し始めました。

「大成功だと思います、“大”を10個つけてもいいくらい! ぼくは大学で、デザインプロセスのコミュニケーションを研究しているのですが、このプログラムでは、社会に出たあとに体験する、いろんな人の目に触れてアウトプットが完成するという、実践的なデザインのプロセスを体験することができていました。

そして、モリサワさんと学生が一緒に取り組んだことも、大成功の要因です。モリサワさんは、ふだん、メンバーのような学生たちに向けてもフォント関連のコミュニケーションを取っています。それが、このプログラムでは、学生メンバーから他の学生へ向けてコミュニケーションを取ることに挑みました。

ふだん情報の受け手だったメンバーがフォントに向ける視点は、チームごとに異なっていた分、フォントのつくり手であるモリサワさんと使い手であるメンバーのフォントに向ける視点にも良いズレが表れていて、このプログラムでフォントを伝えるコミュニケーションをより面白くしていました」

 

カイシさんが気づいた8つのZINEの魅力

各チームのZINEも、カイシさんの視点を通すとフォントの繊細な魅力を表していることがわかっていきます。

「最初にプレゼンしてくれたチーム(目からウロコ。)は、1つのZINEを3つのコンテンツに切り分けた方法が面白い。一般大学生に接しやすい漫画という企画から、使われ方を伝えるフォント制作者の協力を得た企画まで、コミュニケーションを活性化する構成に感心しました。次のチーム(フォント熱が収まらないっ!!!)にもまた違う魅力があって。フォント制作のプロセスをすごろくで表現してしまう。そういうアウトプットは学生メンバーだからこそ、表現できたものですし、新しくフォントに興味を持つ人にも届きそうです。

3つ目のチームのZINE(魅る文字)は、一番楽しんで読めたものかもしれません。服部一成さんはいろんな媒体でインタビューに答えている方ですが、これまで読んだ中で一番わかりやすい内容になっていました。一流のインタビュアーや編集者でも、聞き出せない話になっていたんじゃないかな。

4チーム目のZINE(フォントとブランド、のはなし。)には、原研哉さんのインタビューも載っていましたね。長い文章が続くZINEでしたが、網点や紙の白さを表現するデザインで、綺麗に仕上がっていましたし、フォント開発の裏側まで話してくれている良い内容でした。

次のチーム(もしもじ)は一転、企画の発想が面白くて。紙媒体にあえてSNSをモチーフにした内容を移植する感覚が時代に合っていると思いましたし、スマホの画面に見立てたページではバッテリー残量が少しずつ減っていくという細かいこだわりまで感じられました」

ZINEを褒める言葉は淀みなく続きます。心から、ZINEの魅力を受け取ってくれた様子が溢れていました。

「6つ目のチーム(字面スケッチ)は、美術系の学生がいない中、これほどのZINEをデザインしたことに拍手を贈りたい。新しい発想の企画を、淡いピンクのNTラシャ ホワイトローズという紙に印刷して、綺麗なZINEに仕上げています。次のチーム(AURA)でもデザインに感心して。4つの物語にメンバーがフォントを活かした装丁をつくったものは、どれもフォントの美しさを損なわない仕上がりでした。

最後のチーム(文字フェチ)にまでなると、フォントへの興味・関心がフェチになっている様子を隠していないところがすごい。8種類の切り口それぞれをミクロに特化して分析した内容と、ジャンプ率を活かした紙面デザインで大迫力のZINEになっていましたよ。

そのような感じで、どれもすごく良かったです。こんなに視点が重ならず、定着できたから、つくり手と使い手の間に良いコミュニケーションを生むZINEができたんだと思います」

 

カイシトモヤ流タイポグラフィの基本

ゲストトークの後半は、カイシさんの仕事を例にフォントを活かしたデザインの話を進めました。ふだん、シンプルなフォントを好んで利用し、フォント制作者のデザインをあまり崩さないで使用することが多いカイシさんは、タイポグラフィの本質を2つに分けて意識しているようです。

「タイポグラフィの本質は、『①どんな文字を』『②どのように並べるか』ということなんです。①のように、フォント選びを気にかける方は多いですが、②を意識すると、タイポグラフィの可能性は無限に広がります。シンプルなフォントでも、ゲシュタルト(形態質)を意識して並べるだけで、ロゴっぽくデザインすることもできると思うんですよ」

時には、フォントのかすれ具合を引き出すような工夫をデザインに取り入れても、カイシさんがフォントに向き合う際の基本は変わりません。その基本になる考えを教えてくれた、フォントを活かすデザインの話の後は、観覧席から寄せられた質問に答えていきました。

Q.5つ目のチームのZINEには、読んだ後にまちでフォントを見たらウズウズしてしまうくらい興味を持ってほしいという目標がありました。カイシさんも、まちでフォントを見かけた際、直したくなってしまうことはありますか?

「実は、文字詰めが気になってしまうことはあります。もしもエスパーの力を手に入れることができたら、世界中の看板の文字詰めを修正する力がほしいくらい(笑)プロがデザインしたものでも、そう感じることがある一方で、それ以外の人がつくったものに驚かされることもあって。喫茶店の看板など本職ではない、市井の人が熱量を持って書いたりつくったりする文字に、ぐっとくるから面白いとも思っています」

Q.近頃、ブランドのロゴはセリフにするかサンセリフにするかという話題が流行っています。カイシさんはデザインの流行とどのように距離を取っていますか?

「デザインという、ある一定範囲に興味関心を持つ人たちの間で流行していることは確かにあって、流行の逆を意識したり、流行の先進性をどのくらい受け入れるか考えたりすることはあります。感度が高い相手に向けたデザインと、そうでない人々に向けたデザインでは、どちらが良い悪いではなく、ニーズが異なることを意識していて、デザイナーはその感度を常に高めていくことが大事です」

メンバーのつくったZINEの話にはじまり、自身の仕事を踏まえて、観覧席とのコミュニケーションを築いたカイシさんの講義が終わる頃、会場中のフォントへの意識はより高まったようです。その証拠に、続く懇親会の時間も、会場のそこここでフォントの会話が盛り上がりを見せていました。