2019年9月4日〜7日、国際タイポグラフィカンファレンス「ATypI」が行われました。
63回目となる今年は「ATypI 2019 Tokyo」と称し、初の日本での開催。記念すべき年に、モリパス部員メンバーもボランティアスタッフとして参加しました。

そして今回特別に、「ATypI 2019 Tokyo」基調講演をされたデザイナーの菊竹雪さんに、インタビューをさせていただきました。緊張気味のモリパス部員たちに、若い世代に向けた暖かいアドバイスをいただいた様子をお届けします!

インタビュアー・記事:石井宏樹、尻無濱芽依(モリパス部員)

最初にお仕事の内容からお聞かせください。

空間や環境に関わるグラフィックが主な仕事です。他に、首都大学東京でヴィジュアルコミュニケーションデザインを教えています。

空間などに関わるデザイン以外にもブックデザインなど幅広い分野で活躍されています。一つの分野ではなく、様々なものに挑戦するのはなぜですか?

日本デザインセンターで働くなか、自分のオリジナリティとは何かと考えるようになり、学びの原点である建築にかかわるデザインについて学び直そうと、イタリアに渡りました。

イタリアでは、建築事務所の多くがサイン計画やグラフィックデザインまで手がけていていました。20代後半から30代はじめに、そういった仕事の在り方を経験したことが、分野を選ばない理由です。しかし、私の主軸はやはり、建築や環境にかかわるグラフィックです。

イタリアへの留学が今の考え方のベースになっているんですね。

そうですね。ヨーロッパで経験したグラフィックと環境との関わりに刺激を受けました。

 

次の質問なんですが、フォントに興味を持ち始めたきっかけ、フォントの感性が“ON”になった瞬間はありますか。

グラフィックデザインで、文字は欠かせないコミュニケーションの一つです。どういう文字を選択するか、デザイナーの感性が試されると思っています。

私が日本デザインセンターに入社した80年代は、写植の時代でしたから、先輩デザイナー方に書体の選択や組版を徹底的に鍛えられました。今では、PC上でフォントを変えて様々な文字組を試すことができますが、それでも、写植を扱っていた当時と同じように、文字を扱うときの緊張感はもっていたいと思います。

文字にこだわりを持つ菊竹さんですが、どのようなフォントがお好きなんですか。

和文明朝体では、リュウミン
文字組する際は、一回はリュウミンを試ます。それからA1明朝も好きです。

 

伝統的なフォントが好きなんですね。

完成度がやっぱり高いですからね。間違いがないという、安心感があります。リュウミンは20代から使っているので、もう40年使っていることになりますね。
一方で欧文に関しては、もっと自由に時代を意識した書体選びを心がけています。

 

リュウミンにはとりあえず組んでみようみたいな安心感がありますよね。
菊竹さんの作品は文字が印象に残るものが多いです。フォント選びの際も好きなフォントを意識しているんですか。

私の好き嫌いではなく、その空間や建築にふさわしい文字とは何かを考えますね。どういった空間なのか、どういった人が使うのか、用途に関する内容に加えて、建築デザインや仕上げも含めて、トータルに書体の選択や文字のデザインを考えます。

 

講演でお話いただいた、単身者用集合住宅のデザインにものすごく感動しました。無機質で都会の冷たさを感じる壁に、HOMEというデザインを施すことによって、自分のホームみたいな暖かい雰囲気が出ていて。

 思いが伝わっていて嬉しいです。

平均年齢20代の単身者住宅で個室は決して広くないので、パブリックな屋外吹抜け階段壁面をグラフィックデザインで最大限活かして欲しいというのが、建築家からの依頼でした。そこで、狭くとも「あたたかい我が家」と居住者に感じてもらえるよう、幾何学模様と「HOME」の文字で壁面を構成しました。「HOME」は、4種の異なる書体を組み合わせた文字のデザインとなっています。

Project Narashino
Architect: Takenaka Corporation
Photo: Nacasa & Partners

 

デザインと合ったフォントを選ぶには、まずはフォントを知ることが大切なんですね。
そんな菊竹さんがフォントの感性が“OFF”になる時はありますか。

文字に関して、いつもアンテナを張っているように思います。

街のあらゆる場面で使われている文字が気になり、これは何という書体だろうと、考えることが良くあります。

 

常にフォントの感性が“ON”なんですね。

この頃は、iPhoneで気になったモノを記録することがほとんどですが、気がついてみると、文字を撮影していることがとても多いことにビックリします。

 

最後に教職もされているということで、多くの学生と触れ合う機会が多いと思います。学生に向けて何かアドバイスをお願いします。

お話したいエピソードが二つあります。ひとつは、活版印刷をお願いした方に「あなたが使おうとしている書体がどうやってできたか、知っていますか?」と聞かれましたが、当時の私は、答えられませんでした。そうしたら、「作られた経緯を知っていて使うのはいい。しかし、知らないで使うのはいけない」と言われたことがあります。その言葉は衝撃的で、今でもはっきりと覚えています。

二つめは、アメリカの話です。大統領選の集会などで、候補者のスローガンを書いたプラカードが使われますよね。その書体は、選挙戦のために開発されたもので、スローガンを新鮮に広く伝える役目を果たしている、ということを先日モリサワの方に伺いました。文字は、とても強いコミュニケーション力を持っていること、心を伝えるカタチであることを覚えておいて頂きたいと思います。

若い世代の私たちが正しいフォントの使い方や面白さを伝えることが大切なんですね。

その通りです。グラフィックデザインを勉強している学生だけではなく、同世代の方々に皆さんから、心をかたちにする文字・フォントの面白さを発信して頂くことに意味があると思いますよ。

デザインで人のコミュニケーションや気持ちさえもデザインする菊竹さんのフォントのお話を聞けて本当に貴重な体験でした。
本日はありがとうございました。